2024年9月4日水曜日

4. 原爆・原発、極限のリーダーシップ

            2016年4月11日 (G7平和公園訪問)
先進7カ国外相会合(G7)で、米英仏の核保有国を含む7か国外相が広島平和記念公園の原爆慰霊碑に献花、核兵器なき世界平和” に向けて力強いメッセージを発信しました。
特に左の写真中央の二人は、原爆投下国と被爆国の過去を超越して 未来志向で共に世界平和を目指そうという思いがにじみでており、胸が熱くなります。
原爆投下から実に71年、ようやく 平和記念碑に刻まれた、『安らかに眠ってください 過ちは繰り返しませぬから』 が、日本だけでなく全人類の願い・決意になっていく歴史的第一歩が踏み出されました。 原爆資料館でのケリー米国務長官の記帳文面に私達人類が切望する思いが込められています。

 『世界の人々が、(被曝の実相を伝える) この施設が持つ力を見て感じるべきだ。核兵器の脅威をなくすことが私達の義務だという事だけでなく、戦争そのものを避ける為に、あらゆる努力を払う必要がある事を、明白かつ厳しく、切実に思い起こさせる。戦争は最後の手段でなければならない。 決して最初の選択であってはならない。 世界を変える為に努力を重ね、平和を実現し、世界中の市民が切望する未来を作らなければならない事を、この施設は強く訴えている。』 
Everyone in the world should see and feel the power of 
this memorial
It is a stark, harsh, compelling reminder not only of our 
obligation to end the threat of nuclear weapons, but to 
rededicate all our effort to avoid war itself.
War must be the last resort - never the first choice.
This memorial compels us all to redouble our efforts
to change the world, to find peace and build the future
so yearned for by citizens everywhere. 
                                      John Kerry
              

 『まだ小さい動き、政治パフォーマンスに過ぎない』 という声もありますが、7か国の現職外相が広島平和資料館を訪問し、原爆の悲惨さを自分の目で確認し、発信した事の意義は決して小さくないと思います。


このように自由・民主国家の首脳間では、平和へのコンセンサスは強化されつつありますが、残念ながら世界では政治・経済・宗教が混乱を極め、中国・ロシア・北朝鮮等の非自由・民主国家では、外交・政治の切り札として核兵器開発・配備を重視・強化しており、テロリストへの核拡散懸念も増々高まっています。 
私達日本人、特にこれから人生本番を迎える若者の皆さんは、『どうやって世界平和と相互理解・発展を推進できるのか・・自分はどう行動すれば良いのか・・・』 を自分の問題として捉え、世界中の人達と一緒に取り組んでいって欲しいと思います。

そういう中で最近話題の 『ハーバードで一番人気の国・日本』  (著者:佐藤知恵、PHP新書)は、私達が日頃意識しない日本人の優位点、世界に貢献できる特質について、沢山の気付きを与えてくれます。 是非購入熟読して、これからの生き方の参考にして欲しい一冊です。
ハーバード大学・大学院大学は、世界政治・経済の指導者を目指す世界中の優秀な学生が集まります。 その講義で 『リーダーシップ・マネージメント論』 は重要科目であり、意外にも日本人リーダーが数多く取り上げられて人気があるようです。 今回は本書の中から、『原爆・原発関連のリーダーシップ』 について引用紹介します。

1.ハーバード大1年生の研修旅行で一番人気の日本、印象強烈な広島体験
    研修旅行先10ヶ国中(印・伊・イスラエル等)日本は一番人気で、募集発表数分で定員100名が一杯になるそうです。 日本の文化・観光名所等に人気があるだけでなく、案内する日本人留学生の木目細かい配慮や心意気が高く評価されているようです。
京都・広島・箱根・東京と回る中で、広島は一番強烈な印象を残します。 資料館で被曝の悲惨さを伝える写真やビデオを見た学生は言葉を失い、資料館を出ると、皆、こんな感想を漏らします。
『アメリカでは、「原爆投下は戦争終結の為、戦略的に正しかった」 と教えられるが、これは人道的に許されるものではない』
『日本人は、ここまでひどい事をされながら、なぜ原爆を投下したアメリカに対する批判が一言も出てこないのだ?』 
⇒案内する日本の留学生は、「日本人はアメリカを批判するよりも、戦争そのものの悲惨さを語り継いでいこうとする気持ちが強いのです。」 と答えるのが精一杯だという事です。
『日本の小・中学生が修学旅行で広島に来て、“原爆の子の像” に千羽鶴を捧げ平和を祈っている・・日本の子供たちは、なんて素晴らしいのだろう!』
 卒業後、世界中の政財界の要職・リーダーとなっていくハーバードの学生達が、日本訪問を機会に日本理解を深め、私達と同じ感覚で原爆や戦争の悲惨さを捉え、世界平和の大切さを考えていることは心強く、是非連帯を強化し一緒に取り組んでいきたいものです。


検索結果

検索結果広島・長崎の記憶~被爆者からのメッセージ - 朝日新聞

1.モラルリーダー (原爆投下を命じたトルーマン と 終戦を決断した昭和天皇)
「モラルリーダー(人道的リーダー)」 は、『倫理的に究極の決断をしたリーダー』 の事例を学ぶ高人気の授業で、学期末に最も学生の心に残るのが 「トルーマンと原爆」 で、20年以上続いているそうです。 その理由は2つです。
(1)  広島・長崎への原爆投下は、アメリカのリーダーにとって最も困難な決断だったこと
(2)  この事例を通じて 『正戦論=戦争にはルールがある。 戦争は勝利の名目で何をやっても許され、戦時中であればどれだけ人を殺しても良いという論理は間違っている』 という事 を学べること

この授業の特徴は、原爆投下を日本とアメリカ両方の視点から見る点で、受講前に次の課題図書の自己学習が義務付けられています。
『ヒロシマ』・・・ジャーナリストのジョン・ハーシーが、原爆投下直後の広島を自ら歩き、生き残った6人を取材したノンフィクション。 原爆投下時の状況を6人の目から忠実に再現し、投下一年後、後遺症に苦しむ6人の姿も描写し、原爆がもたらした悲惨さを浮き彫りにしている。 
『ヘンリー・スチムソンの論文』・・・彼は原爆投下時の陸軍長官で、終戦後も原爆投下の正当性をこう主張し続けた。「原爆を使わずに本土上陸作戦を遂行していたら、戦争終結は1年以上遅れ、アメリカ兵士だけでも100万人以上の死傷者が出るとの報告を受けていた。」

授業では、哲学者のジョン・スチュアート・ミル と、 エマニュエル・カントの理論をもとに検証し議論します。 ミルの 「最大多数の最大幸福の功利主義」 から見れば、「トルーマンは、米国兵士の犠牲を少なくして戦争を終結させたのだから正しい決断をした。」 となります。  カントの 「人間は普遍的な道徳律を無条件に守らなければならない」 の視点からは、「非戦闘員の一般市民数十万人を一瞬で死滅させたトルーマンは間違っている。」 となります。 
 しかし授業の目的は、『自分が目指すべき人道的リーダーとは、どのようなリーダーか。 自分がトルーマンなら、どのような決断をしたか』 なので、どちらが正しいと結論付けることはしません。 
サンドラ・サッチャー教授は、「モラルリーダーの教員用ガイドブック」 で、昭和天皇が戦争終結に当って、いかに重要な役割を果たしたかを、次のように詳述しています。 
昭和天皇こそがモラルリーダーです。 日本では原爆投下後も、まだ戦争は続けるのだと言い張る軍人が数多くいましたが、昭和天皇は、「もう終わりにしよう」 と言われて戦争終結されました。 これこそがモラルリーダーの姿です。 昭和天皇は日本国民の命を救う事だけを考えて決断されました。

2.福島第二原発を救った素晴らしいリーダーシップ
ランジェイ・グラフティ教授は、福島原発事故の資料を読み、「第一原発は大惨事となったが、第二原発は危機一髪でメルトダウンを免れた。」 事を知り、詳しく調査して、論文 『そのとき、福島第二原発で何があったか』 を纏めました。 そして 「福島第二原発の増田所長は、世界に伝えるべき素晴らしいリーダーシップの事例だ。先が全く読めない中で勇気を持って決断した増田所長の行動は、あらゆるリーダーの模範になる」 として、2014年からハーバードのエグゼクティブプログラムで次のように伝え、教え続けています。

(1)  1か月かかる作業を2日間でやり遂げた凄み
 原発事故を防ぐ3原則は、「①止める、②冷やす、③閉じ込める」 です。 福島第二原発では、「①止める」 事には成功しましたが、「②冷やす」 為の電源が喪失していました。 1,2,3号機に電気を送るためには、残された2つの電源からケーブルを敷設して、冷却機能を復旧させなければなりません。冷却できなければ、メルトダウン、放射能漏れ、という最悪の事態になります。増田尚宏所長と作業員にとっては、全てが想定外の事態で、絶えず目の前の現実が変化する中、作業の優先順位を確認していきました。
 仮設ケーブルの1本の長さは200メートル、重さは1トンもあります。 200人の作業員達は、夫々ケーブルを2メートル間隔で持ち、数百メートルの距離を運んで繋ぐ、という作業を繰り返しました。 大津波襲来翌日の3月12日の日中から13日の深夜まで、不眠不休で作業を続け、最終的に作業員が引いたケーブルの長さは9,000メートルです。 普通なら重機を使っても1か月はかかる作業を、人間だけの力で、2日間でやり遂げました。

(2)  危機を救った増田所長の 「センスメーキング」
グラティ教授が特に注目し強調するリーダーシップは、地震発生後の混沌とした状況の中で、増田所長が、まず何をしたかという点です。

「増田さんは、作業員でごった返す緊急時対応センターで、ホワイトボードにひたすら数字と図を書いて行きました。 それは余震の頻度とマグニチュード、それと危険度が減っている事を示す図です。 つまり 『私にも何が起こっているか分からないが、少なくとも私が知っている事はこれだ』 と、作業員と情報を共有化したのです。 これを社会心理学では、センスメーキング (sense makingといいます。危機の真只中にいて、センスメーキングができるリーダーはなかなかいません。」

「センスメーキングとは、置かれた状況を能動的に観察し理解しようとすることで、これはその場にいる人達が同じ情報を共有し、次のアクションを考えるのに役立ちます。 数字や図などの客観的な情報は、人を落ち着かせる効果があるからです。 作業員がパニックに陥らなかったのは、初期段階で冷静に状況を説明されたからでしょう。」

「センスメーキングには、二つの目的があります。 【①自分自身が状況を客観的に理解できるようにする事。 ②周囲の人が状況を理解する手助けをすること (⇒センスギビング (sense giving) 】です。 増田さんが頻繁に状況を整理して伝えたのは、作業員の皆さんの為だけでなく、自分の為でもあったのです。 この原子炉が一番危険な状態だ、この資材が届かないなど、情報は刻々と変わるわけです。 危機を乗り切るための五日間を分析してみると、そうした混乱状態の中で、センスメーキングとセンスギビングが繰り返し行われている事が分ります。 これが福島第二原発が破局を免れた大きな原因の一つだと思います。」
         
(3)  計り知れない尊い日本人の 「無私の精神」
グラティ教授が主催する エグゼクティブプログラムでは、世界各国で活躍するトップリーダーが学んでいます。 彼らにとって最も大きな課題は、『先が読めない世の中で、どのようにリーダーシップを発揮していくか』 ですので、この福島第二原発の「チーム増田」 が示したリーダーシップと作業員の奇跡的な行動こそ、これから世の中で求められるリーダーシップ、メンバーシップとして格好の手本・教材となるのです。

「福島原発で増田所長率いる 「チーム増田」 は、何度も不測の事態に直面しました。 東日本大震災級の地震に対応するマニュアルなどある筈もないので、全てが想定外でしたが、増田所長は作業員と共に、問題を一つひとつ解決していったのです。」

「増田所長が発揮したリーダーシップは机上で学んだものではありません。 『リーダーである自分は自席から絶対に動かない、明確な指揮系統を確立する、ホワイトボードに数字を書く、戦略を変えながら適切な指示を出す、作業員全員に役割を与える』 といった行動は、トップリーダーに必要な資質ですが、『直感』 によるところが多いのです。」

「作業員が見事に一丸となって働いた理由は、やはり増田さんをリーダーとして信頼していたからです。 危機的な状態で、『私にもこの後 どうなるか分かりません。 皆さんはどうするのが正しいと思いますか? 私と一緒に打開策を見つけましょう。』 と虚心坦懐に言えるリーダーはそうそういないのです。 ましてや増田さんは第二原発を知り尽くした人なので、なおさら説得力があります。」

「増田さんのように直感的にリーダーとして正しい行動をとれる人は良いですが、普通の人は  やはりしっかり学ばないと間違った行動をしてしまうものです。 混沌とした状況では特にそうです。其の為に私達はリーダーシップを学ぶ必要があるのです。 日本人の無私の精神は、計り知れない尊いものです。 それをチーム増田の皆さんは教えてくれます。」

3.エピローグ① 「快適すぎる日本のジレンマと課題」
このようにハーバードの教授陣から注目される日本のリーダーシップですが、手放しで絶賛している訳ではなく、『数々の偉業を成し遂げてきた日本ゆえの課題も大きい』 と、次の3点を指摘します。 そして日本は必ず変わる事が出来ると力説します。
(1)  グローバル化の遅れ・・・理由は ①変化へ極度の抵抗、②内向き志向
 日本人が内向きになったのは非常に快適な社会だからで、国外に出るとものすごく不便に感じ、『わざわざ不快な異国に行きたくない』 という内向き志向を生んでいます。 戦後破壊され尽くした日本人は懸命に働き、国を復興させ、快適な社会を作り上げてきましたが、いまやそれが足枷となって成長が停滞しています。 快適な社会で生まれ育った若者は、勤労意欲が少なくなり、「世界に挑戦しよう!」 と思わなくなりました。 日本のような快適で均質な社会に住んでいる人が、『わざわざ苦労する、不快な思いをしそうな事に挑戦する』 事は非常に難しく、このジレンマは中々簡単には解決できるものではありません。
(2)  イノベーション停滞・・・「快適な国」 である事が原因
アメリカで数多くの新興企業やテクノロジーが生まれ理由は、アメリカに問題が多く、それを解決する必要があるからで、そこに世界に通用するイノベーションが生まれます。 かって日本から多くの技術革新が生れたのは、戦後の復興期のモノも金もなかった時代で、豊かになった現代日本はハングリー精神を失い、イノベーションが起き難くなっています。
 しかしこれからは高齢化社会となって若い労働力が少なくなり、道路や鉄道、製造装置、建物などの老朽化対策・保全・建替え等が難しくなっていき、これらの新たな難問を解決するにはイノベーションを起こすしかなく、そこに日本のチャンスが生まれます。
(3)  若者と女性の活用不足・・・モス教授は次のように指摘しています。
「日本の若者と話をすると、彼らは非常にクリエイティブで、先端的なビジネスアイディアを沢山持っているが、口々にこういうのです。 『日本の伝統的な大企業に入社すると、新人として何年も下積みをしなくてはなりません。 新人が新規ビジネスを提案して推進するなど殆ど不可能です。 入社して20年くらい経たないと、自分が本当にやりたい事が出来ません』 と。 これでは若者の創造性を潰してしまい無気力・停滞を生み出し、また優秀な若者の日本国外流出に繋がります。
また日本は少子高齢化の問題に直面していますが、女性の巨大な労働資源が眠っており、女性の力をフル活用することで解決する事が出来ます。
日本企業はいまも大量生産を前提に考える傾向がありますが、現在は第三次産業革命の時代であり、発想の転換が必要なのに、時代に合わせた能力開発やリソース活用が出来ていません。
戦後日本が奇跡的な成長を遂げたのは、戦争で働き盛りを失い、若者が創造性を発揮し、知恵を絞ったからこそです。 同じことを、いま日本はやるべきだ、と私は思います。」

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