2024年7月5日金曜日

7. 『失敗学のすすめ』に学ぶ

●18年前に予測されていた今回の大津波の被害
皆さんは左の写真を見たことがありますか? 18年前に発刊された『失敗学のすすめ』 (畑村洋太郎:  講談社文庫)に紹介された写真です。

畑村氏は、この本で失敗情報は伝わりにくく、時間と共に忘れ去られていく』指摘しています。その典型例がこの三陸海岸で繰返される津波被害です。 明治と昭和初期の三陸海岸大津波災害が起きた場所に、二度と津波被害には会いたくないという思いで、『ここより下に家を建てるな』 という石碑が数多く建てられました。 しかし50~60年も経つとその石碑の下に多くの住宅が建てられました。 恐らく今回の大津波ではその多くが飲み込まれたのでしょう。 
畑村氏は、便利さを優先させ先祖が残した教訓を忘れてしまった』と13年前に警告を発しておられましたが、残念ながら今回も約2万人の死者・行方不明者という悲惨な災害が発生しました。もしこの教訓が活かされていれば多くの命は救われたかもしれません
 三陸海岸では、60100年周期で約2万人規模が死亡する悲惨な津波被害が繰返されていますが、これを根本から断切るには『何にも代え難い尊い人命を失わない事』 という大義・根本理念を最優先すること、即ち 『①今回津波が押し寄せた範囲は今後居住区とせず全て高台に移転する』 、『②堤防は今回の津波以上の高さとすること』を、復興対策の柱とすることではないでしょうか 
  しかし大災害後1年経過して早くも、『景観を失うので堤防の高さは元の高さにして欲しい』 とか『一日も早く元の場所に住みたい』 という希望が多いと報道されています。こういう要望に国も地方自治体も毅然とした大原則を打出すことはなく、ズルズルと優柔不断の対応を繰返し、いつまでたっても解決しません。 悲惨な大災害が繰返されるのは、あるいは、『失敗の本質原因を直ぐ忘れる、大義・基本理念を大事にしない国民性』 だからかも知れません。

201431日の読売新聞特集】で新防潮堤の高さを
当初計画の14.5mから約 半分の5~6mに変更した(大槌町、釜石市)の記事がありましたが、その理由が高すぎると安心して危機意識が薄れかえって逃げ遅れるとあって、少々呆れると同時に、安全意識を共有化する事の難しさを感じました。 岩手県普代村の15.4m堤防(1984年完成)は津波を食止めたにも拘らず、住民は『食い止められたのは偶然。次はダメかもしれないと必死で逃げる』 と話していますが、こういう感覚が正常で被害を最小限にすると思います。


ここに手本とすべき事例がひとつあります。 静岡県東部の富士海岸には高さ17mの防潮堤が20kmに渡って築かれています。1956年の伊勢湾台風、1966年の26号台風の反省に基づき建設されたもので、国土交通省によると日本一の高さで『万里の長城』 と呼ばれています。 しかし残念ながら例外中の例外で、太平洋の南海岸はほとんど従来防潮林のままです。

 この『失敗学のすすめ』は、政府原発事故調査・検証委員長の畑村氏が10年前に執筆したものです。人類の歴史は色々な失敗による大事故の不幸を積重ねた歴史でもありますが、氏は『失敗を繰返さない工夫と努力が創造力を生み社会を発展させた』 、また『失敗の原因の多くは、効率や便利さのみを最優先させた結果引起こされた』 と指摘しています。

●失敗情報の伝わり方・伝え方
 企業や官公庁では、事故やトラブルが生じたとき、苦労して事故報告書を作成しますが、この書類は省みられることは少なく、あまり活用されません。これは失敗情報の纏め方が記述して記録することで終わり、「知識化・伝達」のプロセスがなく、活用できるようになっていない為です。従って他の人が同じ過ちを繰り返すことになります。 失敗情報は、人間が物事を理解する順序に従い、①事象、②経過、③原因、④対処、⑤総括、⑥知識化、の六項目で整理して記述することが大切です。   (⇒失敗学会

●社会を発展させた3大事故
  タコマ橋の崩壊事故
  初期のつり橋であるタコマ橋が強風に煽られて、大きく振動しついには崩壊する、という映像をご覧になった方も多いでしょう。 この「失敗」により、「自励振動」の正体が明らかになり、その後のつり橋建造に活かれ、このような事故は繰り返されることがなくなりました。 (これと類似の現象で、2003926日、苫小牧で巨大地震の長周期波の共振による石油タンク液面スロッシングで浮き屋根が壊れ大火災になった事例があります。)

② コメット機の墜落事故
  世界初のジェット旅客機デハビラント・コメット機が就航した後、2機が相次いで空中爆発事故を起こしました。この「失敗」により「金属疲労」のメカニズムが明らかになり、その後の航空機開発に活かされ、このうな事故は繰り返されることがなくなりました。

 ③ リバティー船沈没事故
リベットによる造船が主流の時代に溶接により建造したリバティー船が1940年代に登場します。しかし就航間もなく次から次へと破壊事故が発生します。この「失敗」により「低温脆性」のメカニズムが明らかになり、その後の造船技術に活かされ、このような事故は繰り返される事がなくなりました。
 
このように人類は失敗で多くの犠牲を払いましたが、失敗を乗越え技術は進歩してきました。

「良い失敗」と、司法取引制度
 畑村氏は、『失敗には2種類ある、即ち「良い失敗」「悪い失敗」である』、と指摘します。

「良い失敗」は、「未知への遭遇」の中に含まれるもので、細心の注意を払い対処しても防ぎ切れない失敗を指します。このような未知への遭遇により引起こされた失敗はその後の技術に飛躍的進歩をもたらします。先述の3大事故がそれに該当します。また避けられない「良い失敗」について、その責任は追及されるべきでないと主張しています それが余りに厳しく追及されるようだと、失敗が隠蔽され社会の発展が停止します。 日本は過剰に責任のみ追及し、本質原因究明や本質対策が、後回しになり中々解決しない傾向があります。真の失敗原因を導き出すためには米国の司法取引制度のような制度が必要です。
 日本のように責任追及と原因究明を同時に行うシステムでは、当事者が刑事責任を避けるため真の失敗原因が隠され、中々本質的対策が打てません。

   畑村氏は昨年7月、原発事故の事故調査・検証委員長に任命された時も、上記と同様の事を言われていました。是非失敗学の基本姿勢に基づき、原発事故の真因を徹底究明して、常に本質対策が迅速に行われる国の体制提言して頂き、私たち国民も全員が、今度こそ二度と今回のような痛ましい災害を絶対繰返すことのない抜本的対策を確立したいものです。
  
その為には、私達一人ひとりが色々な事に関心を持ち、国や専門機関や他人任せにせずに、色々なチャンネルを通じて自分の意見をタイムリーに発信し、当事者としてかかわっていく事が重要です。

    例えば、この『失敗学は社会に大きな反響与え、現在失敗学会 (会費無料、誰でも参加可能)』として活動を全国展開していますので、この活動に参加するのも、有効な第一歩です。 
    特に石油・化学業や都市ガス、電力会社、製鉄業などは、大量の危険物を取扱い、小さな失敗が大災害へと発展する可能性のある危険性の高い仕事です。 かつ停止すると、たちどころに全国民が困窮する公共性の高い重要な仕事ですので、従事されている皆様方は、是非定期的にインターネット等で『失敗学会』にアクセスして勉強し、失敗学会に参加して、この失敗学を積極的に学び身の回りで活用・展開していって欲しい思います

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