羽田から千歳空港に向かう途中「着陸姿勢に入りました」のアナウンスと共に、左手前方に北海道の大地が見えてきて、海岸線の近くに大きな支笏湖が確認できます。その周りの3つの大きな山が印象的です。
手前から樽前山、風不死岳、湖の向こうが恵庭岳です。支笏湖は4万年前の支笏カルデラ大噴火の名残です。その後、南北に走る割れ目から風不死火山、次いで恵庭火山、最後に樽前火山が誕生しました。一列に並んだ3つの火山は、同じ支笏カルデラの底にあるマグマから誕生した兄弟火山であることが良くわかります。
そして千歳空港に降り立つと、西遠方に印象的な山が見えます。赤茶けた大きな火山の頂上に『真黒な木栓が打ち込まれたような異様な山体」、これが「樽前山1041m」です。まるで神様が『しばらくおとなしくしておけ!』と火口に栓をしたようです。
私の北海道初体験は30歳、人事部主催の直長研修を白老研修施設で行った時です。研修終了後、苫小牧在住の尊敬する下山さんを訪ねたところ、「よく来たな、一番北海道らしいとこに行こう!」と連れて行ってもらったのが支笏湖です。
支笏湖は不凍湖で、冬の澄んだ青空よりも、さらに深く澄み切った群青色の美しい湖です。その向こうには「神々しい恵庭岳」、左手には純白のベールをまとった「純白の巨大な樽前山」が聳え立っていました。あれから47年たちますが、あの震え立つ感動は今も鮮明です。
雅子皇后陛下が独身時代、支笏湖が大好きで何回も訪れられたのが納得の美しい国立公園です。
千歳から苫小牧にかけては、4万年前の支笏カルデラ噴火の分厚い火砕流平原の上にありますので、どこからでも樽前山の奇異な山容が確認できます。
私は北海道勤務時代、樽前山を見るたびに『これが俺の新たな故郷の山だ!』と思いながら過ごしました。1041mの7合目までは車で行けるので手軽に登山でき、春は高山植物の美しい花を、夏は汗かきに、秋は紅葉と、3年間で50回以上も登りました。北海道に降り立ったら、是非車で1時間弱の「支笏湖・樽前山」に訪れましょう。「ああ、北海道に来たのだ!」と感動すること間違いなしです。
1. 樽前山は、世界でも珍しい三重式火山
約9100年前に大きな噴火と共に誕生しました。約2500年前や1667年と1739年にも大きな噴火があったことがわかっています。1739年の大噴火の際にできた火口の縁は現在の外輪山にあたります。その中はその後の噴火により埋め尽くされ、中央部には1909年の噴火により溶岩ドームが造られました。最近の噴火は1981年に起こりました。真ん中の溶岩ドームからは、数か所からゴーゴーと盛んに噴煙が出ており、雪が降っても地熱が高い為、直ぐ溶けて黒い姿に戻ります。
樽前山は1041mと低いのに、頻繁に噴火を繰り返すので、8合目以上は赤茶けた火山噴出で覆われ、まだ植物が育っていません。比較的なだらかな斜面なので、冬
雪が積もると上手なスキーヤーが、この頂上からシュプールを描く姿も見られます。(ボーゲン専門の私には羨ましい限りです。)
2.「風不死岳1,102 m」樽前山登山道から
私はあの山容からどうしても一度登りたくて、秋口に1回だけ登りました。その頂上からの絶景は忘れられません。まるで天上から支笏湖を見下ろしている神様の様な気分に浸りました。真下には国道276号線を走る車が豆粒のようです。何度でも行きたい素晴らしい絶景ですが・・ヒグマが怖いので二度と登ろうとは思いません。
3 登山小屋から北登山道5分、突然視界が開けて絶景
標高差によって植生が異なり、湖に近い標高300~400mくらいまでは黄葉のカツラ、シラカバ、ダテカンバ等、それ以上になるとナナカマドの真っ赤な紅葉が主人公となっています。
支笏湖と千歳平原の遠望も魅力的です。
4.苫小牧から見た樽前山
『白きたおやかな峰』は北杜夫の魅力あふれる登山随行作品です。カラコルムの未踏峰ディラン峰7273mに挑んだ登山隊のドクターの視点から描かれた遠征記です。ドクトルマンボウの『青春記』『航海記』に続く『登山記』です。これが元になり魅力的な大人のメルヘン『さびしい王様』が生まれました。学生時代 北杜夫が大好きで夢中になって読みました。しかし『白きたおやかな峰』の名前が一番似合うのは、真っ白に雪化粧した樽前山ではないでしょうか。
たおやか=姿がしなやかで優しく上品なさま
5. 樽前山は危険な活火山
今は「たおやかな美しい山」の樽前山ですが、実は国内でも危険な活火山の一つです。支笏湖カルデラの3番目の側火山として約400年前から活発な噴火活動を続けています。これは明治44年(1909年)噴火時の苫小牧から写された記録写真です。これで小規模噴火で、溶岩ドームが吹き飛ばされた後、再び現在の溶岩ドームが形成されました。小規模でもこの噴煙です。中規模、大規模の噴火は想像を絶します。
6. 「神々しい恵庭岳」 1,320m
30歳の頃、大先輩 下山さんのお陰で北海道を代表する絶景の支笏湖と3つの火山のとりこになりました。そして43歳で1年間、53歳で3年間北海道勤務となり、樽前山には気軽に50回以上登りましたが・・気になる恵庭岳は、その神々しい山容から登るのが憚れました。爆裂火口の上部からは今も噴煙が確認され、山頂直下崩壊で頂上に立てないのも、神様が「見るだけにしなさい」と言っているように思えました。
しかし56歳で本社製造部への異動がきまり、「お別れに一度は登らないと!」と意を決しました。恵庭岳は典型的な成層火山で、札幌オリンピックの時に大回転の競技場に選ばれた厳しい山で延々と続く直登に難儀しました。頂上直下には「この先崩落しており立ち入り禁止」の防護柵がありましたが、そこから見下ろす支笏湖・風不死岳・樽前山の絶景は忘れられません。この写真は紋別岳山頂からの恵庭岳です。
7. 支笏湖対岸に聳える『紋別岳866m』
8. 樽前山 溶岩ドームの向こうに羊蹄山!
山頂溶岩ドームの向こうには羊蹄山、その向こうにはニセコ連山が見えます。
山頂溶岩ドーム南側斜面上の B 噴気孔群(写真の左の噴煙)からは高温ガスが噴出し,砂礫と共にドーム斜面を約 100 m 流下する珍しい現象が確認されています。私も苫小牧市街から、夜間このあたりを遠望していると、青白い炎が揺らめいているのを何回も目撃しました。B 噴気孔群を赤外熱映像装置で観測した表面温度は「 458°C」 と極めて高温だったそうです。
9. 近くで見る溶岩ドーム
明治42年の噴火の最期に押し出てきた巨大な溶岩ドーム。「真黒な溶岩のドームに二つのツノが!」こちら側から見るとまるで悪魔が怒っているように見えます。ドーム溶岩は高さ134m,体積約2,000万立方メートルと見積もられています。遠望も間近で見ても、何とも強烈な印象が残り、何回登っても飽きない火山です。私は苫小牧勤務の3年間で50回くらい登っています。
10. 樽前神社
あまりに荒々しい樽前山を鎮める為に、苫小牧市高丘に荘厳な「樽前神社」があります。ご神体は樽前山。私も正月、例大祭には必ず参拝に行きました。
20数年前に出光が経営困難に陥った時、北海道製油所ではコストカッター所長があらゆるコスト削減に走り、危険域の保全費削減だけでなく、市民祭参加や、構内氏神様の例大祭までやめてしまいました。
ちょうどそのころからエアフィン大火災、重脱配管噴破大火災、ナフサタンク大火災と、大事故火災が頻発し、市民から「出光は出て行け!」という厳しい声が上がりました。私はそのころ関係会社の備蓄基地総務課長で頻繁に樽前神社にお世話になりました。そのとき樽前神社宮司さんから「言いにくいことですが」と、厳しいことをしみじみと言われました。
「工場や職場に氏神様や神棚を祭り正月や春秋例大祭を執り行うのは、所員の心を一つにして仕事の成就や安全を決意するという大きな意味があります。そういうものをすべてやめた出光さんは、それまでの”所員が心を一つにする”という大切なことをなおざりにしたのではないでしょうか。」
そして新たに赴任した所長は、真っ先に樽前山神社の公式参拝、氏神様の毎朝の礼拝、例大祭の復活、そして市民祭りへの復活を果たしました。市民祭りでは「出光さんお帰り!」の垂れ幕で暖かく迎えられました。
11. 江戸時代以降の樽前山噴火史
この100年大噴火は起きていませんが小噴火は頻発しており、中規模の噴火の可能性が高まっています。












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