1.『人の心は
ふれあい(ストローク)で形作られる』
人間の肉体は、栄養や睡眠や清潔が必要で、それなしには健康に生きていくことが出来ません。同様に『人間の心の健康にも栄養=人とのふれあいで得られる刺激が必要』で、これがないと、人間は心のバランスを失い、心の健康を保てなくなってしまいます。
この人との接触から得られる刺激を『ストローク』と呼びます。その意味は『なでる、さする、愛撫する』という意味ですが、交流分析では『ある人の存在を認めるための行動や働きかけ』と定義しています。
私達は生まれた時から、抱かれたり、あやされたり、愛撫されたりしてストロークを受けながら育ってきました。それらが私達の神経系統の適切な刺激となって、健全な心身の発達を促進してきたのです。心理学者エリック・バーンは『幼児期に十分なストロークが与えられないと、その子の脊髄は委縮し、肉体的にも、情緒・精神的にも成長が遅れる』ことをつき止めました。
【故 岡野嘉宏著「新しい自己への出発(廃版)」P61に実例として「スーザンという女の子」の記録映画の話が出ていますので別途紹介します。】
子供は成長につれて言葉を覚え、言葉で生活できるようになります。そうすると今までの『肌の触れ合い』から、ほめられたり頷かれたりして、自分の存在や価値を認めてもらう『心のふれあい』を求めるように変わっていきます。このような言葉や無言の動作によって与えられるストロークの事を『心理的ストローク』と言います。
ただ心理的ストロークを求めるようになっても、それだけで満足するものではなく、子供から大人になっても肉体的ストロークは必要なものです。
私達のストロークには「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」があります。それを整理すると次の表になります。左の緑の状態の時私達は存在を肯定され、豊かで幸福感に満たされます。反対に黄色やピンクの状態の時は、存在を否定され悲しくなり、ひどい時は孤独のどん底に落ち込みます。
私達の心には下図のような『ストロークバンク』という目には見えないストロークをため込む『心の袋』があると考えられています。私達は色々な人間関係の中で過ごしていますが、そこで触れ合う人々から受けた 肯定的ストローク (+) や否定的ストローク (-) をため込んでいきます。(+)で満たされていれば幸福感の中にありますが、否定的ストローク(-)で満たされていると自己否定の孤独な不幸感の中にあります。 更に最下段の(+) も (-) もないストロークバンクが空の状態は、完全に自分の存在が否定され心が空っぽな状態で、(-)でも良いからストロークを得ようとして、外に向かえば凶悪犯罪に、内に向かえば自殺という悲惨な事態を巻き起こします。
2. 現代の若者、大学生の実情
私は退職後、大学1年生のキャリア教育を10年間担当しました。
大学入学直後に接する彼らは、互いにバリアを張り巡らしているように見え、無表情で本当に掴みどころがありません。通学の列車やバスで一緒になる学生達は、黙々とスマホとにらめっこしており、授業で行うグループワークも余程上手く導かないと話し合いが始まりません。90分間一言も話さない学生も少なくありません。 放っておけば互いに名前も知らず話もしないまま1年が過ぎるのではないかと本当に危惧します。
そこで私は、班編成変更を頻繁に行って、否応なく多人数と関わるようにして、授業開始の10分間を使って色々な交流ゲーム等を盛込み、各々が自分自身の強味・弱みと向き合い、相互開示し合い話合うように仕掛けています。
そうした中で明確になってくるのは 『現代の大学生は、本当は人恋しく孤独なのに、純粋で真面目で、少しの事に傷つきやすく、自分に自信がない為に目立たないよう自己防衛している』という事です。 何かのきっかけで、他者との交流やコミュニケーションの楽しさを体験すると、見違えるように明るく活動的になります。その変化や成長に接すると『大学講師をやっていて本当によかった!』と、しみじみ思います。そして改めて、若者の可能性の大きさを痛感し、それを引き出す触媒としての大人・先輩・大学教職員・(&キャリア講師)の役割の重要さを再認識します。
次に講義の冒頭で行っている簡単なアイスブレーク・ゲームから、大学生がどのような事を感じているのか、若者の優しく繊細で豊かな感性を紹介します。本ブログ読者の皆様が、身近な若者に接する時の参考にして頂ければ、とても嬉しく思います。
私達は、二人だけでなく、三人、四人・・と、色々なバージョンの人間関係の中で暮らしています。その一人一人は、考え方や価値観や行動が全く違う為、夫々が正しいと思う事ばかりを主張すると葛藤状態が生まれ、それを周囲が調整・救援しようとしても中々思うようには解決できません。そういう複数人数の言い争いの解決はとても難しい事を、良くある家庭内での親子の会話を通じて体験学習します。
これは職場の中では、上司・先輩・若手となりますが、『仕事の進行や結果』 がテーマとなりますので、やり取りは、もっと深刻で厳しいものになります。そういう準備運動・演習として『家庭内のやりとり』 は、とても分かり易く、沢山の気付きや学ぶべき点が出てきます。
しかし彼らが生まれ育った環境は、生活は豊かですが、塾や習い事に通い(通わされ)両親は忙しくて必要なストロークは中々もらえずに育ち、さらにストロークバンクが空虚な者同士で傷つけあい、その結果、ゲーム等のバーチャル世界に浸り、殻に閉じこもっていた方が安全だと思い込んでいるように思えます。
それでは、かくいう自分の50数年前はどうであったのか・・
正直、今の純粋で真面目な大学生を見ていると赤面する日常で、とても偉そうな事は言えません。私はベビーブーム最後の世代で、今の大学生よりも約3倍同世代がいるにもかかわらず、社会は高度成長期で求人が多く就職には困らない為、毎日部活や麻雀・パチンコ三昧、長髪に反戦デモ、合コンやダンスパーティにうつつをぬかす、凡そ大学生らしからぬ日々でした。
しかし貧しくても新取の気鋭に満ち溢れ、自由闊達に行動し、誰とでも何でもフランクに議論し、元気は有り余り、毎日が輝いていたように思います。それは『友との生身の親密なストロークのやり取り』が頻繁で豊かであったことを意味します。
そういう私達の大人の責務は、孤独で空虚な日々を送っている若者に、にこやかに挨拶し、声をかけ、仲良くなって話を聴いてあげることです。そうして若者たちが狭く固い殻から一歩踏み出し『無限の可能性が広がる実社会で自由闊達に羽ばたく勇気を持つ』ように背中を押してあげることです。
後期授業終了にあたり『講義全体を振り返って何でも感じたことを率直に書きなさい』 としてレポートを書いて貰います。これを読むと、授業の目的・狙いを的確に捉えて自分のものにしており、改めて『現代若者は繊細で傷つきやすいが、本当に心豊かで優秀だ!』 と感動します。『真面目で、素直で、繊細』 であり、大人・先輩・上司が密接に深くかかわる事の必要性を痛感します。一度心を開き交流のきっかけが出来ると、明るく活発になり大きく成長します。(赤)女子学生、(青)男子学生
(H) :自分自身への理解が深まった。 後期で2回の班変更があり、否応なく他者とのコミュニケーションをしなければならない状況に置かれたため、多少なりともコミュニケーション能力は上がったと感じた。
(W) :この授業を通して、班の人と協力して活動する事の大切さと楽しさを学びました。一人では大変な事でも他の人と協力することで、速く楽しく出来ることが分かりま した。これからも団結力を大切にしていきたい。
(Y) :この授業では、自分の将来を考え見つめ直す良い機会で、他の人の意見や考え等を聴ける場面が多く、自分が今後どうしていくべきなのかを深く考える切掛けを与えてくれています。一つ一つの授業で先生のメッセージも受取れて、毎回 『これからも頑張って行こう!』 という気になります。毎回コメント有難うございます。
(T) :元々コミュニケーションを取るのは苦手ではないが、人に優しく好印象を与えるような話し方をするのはとても大変だった。プレゼンは優勝できなかったものの、自分達で一つのプロジェクトを成功させた達成感は忘れられないです。一年間ありがとうございました。
(K) :キャリア開発の授業を通して、現在の自分、これから将来目指す自分 をきちんと見つめ考えることで、これからの生活で取るべき行動を明確にすることが出来たと思います。前期後期と一人一人を細かく見て下りありがとうございました。先生が担当で良かったです。
(O) :後期は体調不良と怪我が続き休みが多かったが、支えて下さった先生がとても偉大に思えました。私も大人になったら学生を支えて行けるような人になりたいと思いました。1年間ありがとうございました。
(T) :普通の授業では学ぶ事の出来ない、人との付き合い方を学んだり、人前で発表する経験が沢山出来ました。そのお蔭で色々な人と話すきっかけとなり、とても良かったです。 すごく楽しい授業でした。
(N) :キャリア開発は、ほとんどグループ活動で、グループで一人一人の役割を果たす重要性を学ぶ事が出来ました。グループで行うという事は、相手の事も考えてあげる事が重要であるのだと感じました。また先生は、ひとりひとりのことを、よく見ていると思いました。提出物には、必ずコメントをかいて返却されるので、コメントを見るのが楽しみでした。ありがとうございました。
(K) :最初は、この授業が自分の為にどのように役立つのか中々分かりませんでしたが、回を重ねる毎に考える力やプレゼン能力が向上したと実感しました。後期は特に班のメンバーで協力することが多く、協調性も学びました。もう先生の授業が受けられないと思うと淋しいです。
(Y) :社会に出てから役立つ様々な教訓を学べた。自分の心持や対人能力は一人で勉強するだけでは身につかないが、この授業を通じて多くの事を学びとれた。また先生から様々なアドバイスをいただき、常に高い意識を保つことができた。そのアドバイスを思い出し、今後も高い意識を持って大学生活を送りたい。
(T) :一年間前期後期ともに先生の講義を受けることができてよかったです。とても為になるし、心に残ったことが沢山ありました。先生が教えてくださったことを時折思い返しながらこれからも頑張っていこうと思います。
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