2024年3月3日日曜日

9. 論理的思考力を鍛えるフェルミ推定

 私達は、社会の中で答えのない問題に数多く直面します。
決まりきった仕事はマニュアルに従えば間違いなく処理できますが、実社会ではマニュアル通りにはいかない想定外の問題・課題が多く、そういう難問に対しても的確に判断し対応していく事が 『ビジネスマンとしての本当の仕事』 です。 問題を放置すれば、益々複雑化し困難になり、二進も三進もいかなくなり、自分だけでなく会社も窮地に陥ります。
そうならない為に、日頃から 『柔軟な思考力や、手掛かりのない難問にも仮説を立てて正解近傍にたどり論理思考力・自頭力』 の強化が重要です。 その有効な訓練法としてフェルミ推定があります。

フェルミ推定は、「原子力の父」といわれるノーベル賞物理学者エンリコ・フェルミが教鞭をとっていたシカゴ大学の講義で、「シカゴにピアノ調律師は何人くらいいるのか?」、「地球上に蟻は何匹くらいいるのか?」 といった課題を与え、学生に論理的な思考力をつけさせる為に行っていたものです。 彼は、53歳の若さでこの世を去りましたが、死の床にあっても点滴の落ちる間隔を見て点滴の流速を計算していたという逸話が残っています。

これでは顧客の信頼は得られず、ビジネスマンとしては失格です。
それでは質問です。 5分以内に答えてください。 電卓・パソコン・スマホの使用は不可です。 答えを導いたプロセスも分かるようにしてください。
(例題1)  日本全国に電柱は何本ありますか? 

 入学したばかりの大学1年生に、開講早々上の質問しますと、暫くみんな無言で、その目には 『そんなこと分かるわけないじゃん!』 と、途方に暮れた表情が浮かびます。 
ビジネスの世界では、このような荒唐無稽の設問にも、何らかの数値を概算して『あたり』 をつける事が必要な場面がしばしば出てきます。 例えば新規事業における市場規模を算出する場面、情報システムを構築するに当たり総費用を概算する場面、投資と効果の両方をチェックする投資費用対効果の算出場面等です。

それでは次のような設定では、どういう姿勢が望ましいでしょう?
【 ある中小企業向けの経理ソフトを販売しているシステム営業マンが、初めてのお客様を訪問しました。相手先の情報システム部長にアポイントが取れています。 こうした状況に対して、Aさん、Bさん、Cさんの誰が望ましい仕事の姿勢と言えるでしょうか ? 】
当然ですが、相手先から信頼を得て受注する可能性が高いのはCさんです。

このように仕事の世界では、仕事の段取りの段階で 『あたりをつける=フェルミ推定する』 は、とても基本的な姿勢・素養であり、また身近な正解がない問題を考える事は『問題解決の縮図』である事から、最近では企業の採用面接試験の場面で良く行われるようになり、大学でも理系・文系かかわりなく1年生から思考訓練題材として取上げられるようになっています。

1.フェルミ推定で磨きたい大事な思考力は、次の3つです。
これらの思考力を鍛えておくと、さらにそのベースである 『知的好奇心・論理力・直観力』 まで磨かれます。 【⇒あんなに売れるのは何故だろう? 顧客が欲しがっているのは何だろう? 昨年と変わったのは何だろう? なぜそんなに安いのだろう?】
(1). 仮説思考力・・今ある情報で最も可能性の高い仮説・結論を想定
 ①どんなに少ない情報からでも仮説を立てる姿勢を持つ事
 ②前提条件を設定して先に進むこと
 ③時間を決めて(5分程度)とにかく答えをだすこと
(2).フレームワーク思考力・・仮説設定 ⇒ モデル分解のポイント3点
 ①まず全体を俯瞰し、部分・細部へと視点を移す
 ②いくつかの切り口から一つを選択する
 ③足し算・掛け算を使ってモデル分解(因数分解)する
(3).抽象化思考力・・対象の最大特徴を抽出し「単純化・モデル化」
 抽象レベルで一般解を導き、それを再び具体化して個別解を導く
 ①  単純化して考え、枝葉末節は切り捨てる
   ②  類推を活用する

2.フェルミ推定の流れ・・次のステップを踏み推定すると容易に解決
(1)アプローチ設定(仮説の設定)
(2)モデル分解(因数分解)
(3)計算実行(時間内に解を出す)

3.それでは前出(例題1)をフェルミ推定の流れに沿って解いてみましょう。
(1) アプローチ(仮説)設定
   ①一定の面積当たりの電柱の配置はどうなっているかを仮定
    (2)モデル(因数)分解
  ②日本全土を市街地と郊外に分けて考えます。
      ③  市街地の電柱は「50m四方に1本」郊外は「200m四方に1本」 
と想定すると、1㎢当たり市街地は400本、郊外は25本となり、
常識的な数値になります。
  ④さらに市街地と郊外の面積比率を『20% :80% 』と想定します。
 (3)計算実行
⑤日本の総面積は38万㎢です。 思い出せないときは、日本全土を縦2000km、横20kmと想定、総面積40万㎢と近似値を出します。
⑥そして具体的に次のように計算を実行します。
 市街地=日本面積(40万㎢×市街地(0.2) ×1㎢当り本数(400本
    =3200万本
 郊外 =日本面積(40万㎢×郊外地(0.8)×1㎢当り本数(25本)
    =800万本
 従って、総本数=市街地の本数 + 郊外の本数 =4000万本

4.練習問題 【参考:地頭を鍛えるフェルミ推定 (東大ケーススタディ研究会)】
こういった問題を自分で考えメモ用紙に書きながら解いてみましょう。
大事なのは実際にトライする事です。
(1) 日本の国道の総延長は?
(2) 日本に飼い猫は何匹いるか?
(3) 日本に消防署はいくつあるか?
(4) 日本にコンビニはいくつあるか?
(5) 日本の年間割箸使用本数は? 
(6) 日本にぬいぐるみはいくつある?
(7) 日本の自動車は何台ある?
(8) 日本にゴミ箱はいくつある?
(9) 日本にスキー場はいくつある?
(10)日本にピアスはいくつある?
(11)日本にコピー機は何台ある?
(12)東京都に鳩は何羽いる?
(13)日本に美容師は何人いる?
・・・・

5.練習問題の解答例
正解と合致する必要はありませんが、実値に近い値が出せたら、あなたのフェルミ推
は、かなり妥当性が高いと言えます。
(1) 日本の国道の総延長は・・  55,000 km  (国土交通省)
国道総本数は450本。平均100~200km
(仮定)50km:100本、100km:200本、200km:100
    300km:50本 (合計450本)
(計算)50×100)(100×200)+(200×100)+(300×50
   =60,000Km
(2) 日本に飼い猫は何匹いるか?・・  1,019万匹(2007年調査)
日本の1世帯当たり人数≒3人、総人口1億2千万人 ⇒4000万世帯
(仮定)動物を飼っている世帯≒50%、うち猫を飼っている30%
      1匹飼っている75%、2匹20%、3匹5% ⇒1世帯当り1.3
(計算} 4000万世帯×(50%×30%)×1.3匹 = 780万匹
(3) 日本に消防署はいくつあるか?・・ 1,705か所(2007年)
日本の面積38万㎢ 平地=1/4、 山地=3/4
(仮定1)平地で消防車は10分以内到着⇒36Km/h×10/60h=6Km
     ⇒半径6Km円内に消防署1つ ≒12Km正方形に1つ (144㎢)
 (仮定2) 山地で消防車は40分以内到着⇒36Km/h×40/60=24Km
     ⇒半径24Km円内に消防署1つ≒48Km正方形に1つ(2304
(計算} 平地の消防署・・38万㎢×1/4÷144 ≒ 660
      山地の消防署・・38万㎢×3/4÷2304≒ 124
     ⇒660+124784(≒800)
   ※現実の1/2以下になったのは、到達時間を早く見積り過ぎた為
(4) 日本にコンビニはいくつあるか?・・ 41,666店(2008年統計調査)
 東京都コンビニ数=東京都面積(平地)÷コンビニ1店当りの面積
 東京南北電車1h圏=40Km/h×1h=40Km
 東京東西電車2h圏=40km/h×2h=80Km
 従って東京都面積(平地3/4)=40×80×3/4=2400㎢
 (仮定)電車40Km/hで一駅3分として一駅区間は2Km
    一駅周辺(2×2㎢)にコンビニは10店舗あると仮定
 (計算)コンビニ1店舗当たりの面積=4㎢÷10店=0.4㎢
     東京都コンビニ数=2400㎢÷0.4㎢=6000店
     日本の総人口÷東京都人口=12,000万人÷1,400万人≒ 8.6
   ∴日本のコンビニ数=6000×8.6=51,600
(5) 日本の年間割箸使用本数は?・・  250億本(林野庁HPデータ)
 日本の人口は1,2000万人
(仮定)各年代層2千万人、週外食箸使用数は年代に比例と仮定
    ~10代=2膳、20代=3膳、30代=4膳、40代=4膳
    50代=4膳、60・70代=4膳 ⇒合計21膳/週
(計算)2000万人×21膳×52週=218.4億本
(6) 日本にぬいぐるみはいくつある?・・  6,000万個
(7) 日本の自動車は何台ある?   ・・  5,800 万台
(8) 日本にゴミ箱はいくつある?  ・・  1億1千万個
(9) 日本にスキー場はいくつある? ・・  700か所
(10)日本にピアスはいくつある?   ・・  2,000万個
(11)日本にコピー機は何台ある?   ・・  750万台
(12)東京都に鳩は何羽いる?     ・・ 15 万羽
(13)日本に美容師は何人いる?    ・・  43万人

さあ、是非トライしてみて下さい。
10問も解けばフェルミ推定が面白くなると思います。そうしたら今度は自分で問題を作り解いてみましょう。 兄弟や友達と問題を出し合ってゲーム感覚で楽しむようになれば、あなたの論理的思考力は格段に向上しています。 

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