2024年2月1日木曜日

7. 石油タンク群の津波対策は万全?

  東日本大震災から10年が経過しますが、災害復興、原発事故処理は中々進みません。 その一方で間近に迫った東海・南海沖大地震では、更に大規模の津波が懸念され、京浜・京葉・中京・阪神地区の石油コンビナートや都市ガスの球形タンクやタンクローリーによる石油・ガスの爆発大火災が心配です。 これは今迄の想定をはるかに超えた壊滅的大災害が予測されますが、海岸端にある巨大タンク群が10~20mの津波にさらされても破壊されない防潮堤などの防御策は十分かの議論や検討を耳にすることがありません。9年が経過して『喉元過ぎれば熱さを忘れる。 他所の事故を対岸の火,、他人事として真剣に考えない私達日本人の悪い性癖』に埋没してしまったのではないかと懸念します。
東日本大震災では気仙沼市で津波襲来と同時に大火災が発生、約10日間燃え続けました。 原因は石油タンクから流出した石油で、焼失面積は約74ヘクタール(東京ドーム16個分)、1995年の阪神大震災の全焼失面積約84 ヘクタール に迫る大火災でした。海岸にあった石油タンクが、内陸部へ最大2.4kmも流されており、津波の猛威・恐ろしさを思い知らされました。
1. 津浪高さによる石油タンク破壊の関係
東日本大地震津浪高さによる石油タンク被害状況は次のように報告されています。 これによると、1000KL以下の小容量タンクでは殆どが、津波高さ4m以上で流されたり破壊され、大火災の原因になったことが覗われます。 
1000KL以上の大容量タンクでは、津波高さ2m程度でも殆どがで、本体が流される事はありませんが、配管や漂流物による損傷や破壊、液状化による不等沈下による損傷があった事を示します。 津浪高さ7m以上になると2~3000KLでもタンクが押流され破壊が大きくなると読み取れます。
2.南海トラフ巨大地震時の列島津浪予測と大都市部予測
政府から公表されている最大津浪予測は以下の通りですが、これによると、東京湾深部の品川で2.2m、伊勢湾深部の名古屋で3.8m、大阪湾深部で3.4mと、 いずれも大規模石油コンビナート地帯では4m以下となっており、従来の台風による高潮・高波被害を防止する対策をしっかりと講じておけば、津浪に対しても先ずは大丈夫という事になります。
ただ、外洋に面した地区では、最大30m~35mの巨大津波が10数分で襲来する事になりますから、一刻も早く近くの高台や10階位のビル屋上等に避難する事が必要です。

日本の主要産業が集中する関東・関西・中部・東海地方の海岸に設置されている石油タンク数は気仙沼市の比ではなく、東海・南海沖・首都直下大地震では、津波による石油タンク破壊から、想像を絶する未曾有の大火災発生が予測されます。 この大災害防止の為に、原発で実施されつつある防潮堤嵩上工事が、石油コンビナート・タンク群防御の為にも同様に必要ですが、全くその議論や報道がなされず、対応が考えられていないのではないかと懸念されます。

3.球形タンクの被害について
また今回の東日本大震災で、震源地から5~600kmも遠く離れた京葉コンビナートのコスモ石油で、球形タンクの連続大爆が4回も発生し、最大直径600mの火柱(ファイヤ・ボール)があがり付近の住民を恐怖のどん底に陥れました。 危険物の大爆発の恐ろしさを思い知らされた大災害でした。 これ程の大事故で人身事故がなかったのは奇跡としか言えません。
報道によると、『コスモ石油の球形タンク火災は、開放検査中の水張検査で通常の2倍の加重になっているところに、設計の2倍の地震横揺加速度が加わった為に支柱が折れ、タンクが落下して配管を損傷して火災発生し、タンクを下から焙る形になり、内部で沸騰したガスに引火し大爆発を起こした』のが原因のようです。
 もしこの通りだとすると『常用の2倍の加重となる水張検査の妥当性』が問題となります。何故、窒素による耐圧・気密テスト(全溶接線検査)としないのでしょうか? 水張検査を継続する限り今回と同じタンク火災は、必ず今後も起こり得ます。 

  また別の報道では埋立地の液状化現象で護岸が土圧に耐切れず破壊し、流動土砂の突出により球形タンクの基礎杭が折れたのではないか』とする説もありました。 この心配から東京湾内の石油コンビナートを点検したところ、川崎地区で前現象と思われるものが見つかったそうです。その対策には護岸保護の追加杭を打つしかなく、10mで3億円の高コスト工事となります。 製油所タンクはすべて埋立地の海岸に建設されており、液状化によるタンク基礎変形・破損、津波による護岸・タンク破壊・石油・ガス大量流失と大火災が懸念されます。 各企業・自治体は、そういう観点でのシミュレーションや検証、対策をしっかりと行っておくことが重要です。

4.浮屋根式石油タンクの長周期地震波対策 (スロッシング対策)
15年前にも大地震によるタンク大火災がありました。 2003年9月26日午前4時50分、M8の十勝沖地震が発生し、約200km離れた北海道苫小牧にある製油所の3万トン原油タンクから出火し、浮き屋根周辺のリング状火災に留まり約7時間後鎮火しました。遠距離への長周期地震波により浮き屋根が大きく波打つスロッシング現象 によるものです。
 しかし2日後、今度は隣の3万トンのナフサタンクから出火し、強風の影響を受け屋根全面火災となり、約40時間燃え続けました。 苫小牧港を挟む対岸は、苫小牧市街中心部で、市民を恐怖のどん底に陥れる大火災となりました。テレビ放送は NHK・民報共に火災状況を常時画面隅に映出し報道しました。
この大火災を契機に石油コンビナート法で【①浮屋根の強化、②地域毎に大容量消火砲設置義務、③スロッシングが起きても上部から漏逸しないタンク液面で運用する】 が義務付けられ『長周期地震波によるスロッシング現象』の対策が全国的に実施されています。その結果、今回の東日本大地震では、浮屋根への油横溢はありましたが、タンク外への漏洩や火災事故はありませんでした。

  福島原発事故の東電経営幹部の判断・対応・混乱振りを見ていると『目先の経営効率最優先、平常時の安定運転状態に安住し、想定を超える自然災害時等にどう対応するかという異常・非常時の組織的備え・訓練を怠っていたのが本質原因』であったことは一目瞭然です。福島原発事故調査委員会報告で、畑村・柳田委員は次のように述べています。

「大事故が起きると、責任者は『想定外だった(だから仕方がない)』と繰返すが、本来想定すべき事を想定せず不適切だった。人間は考える範囲を決めないと正しくキチンと考えられない。しかし一旦境界を決めると、その内側(想定内)はもの凄く考えるが外側(想定外)の事は全く考えなくなる。 その考えなかったところ(想定外)に事故が起きると、とんでもない大事故になる。 今回はそれが起こるべくして起きたものだといえる。」

 日本中の企業・組織が目先の経営に目を奪われて、全く同じ状態ではなか・・と危惧します。他山の石として総点検・対応するのが緊急課題ではないでしょうか。
これから起こる東海・南海地震や首都直下型地震時の災害防止対策、特に石油・ガスタンクの津波被害防止対策、大火災への備えを確実に実施しておく事が重要です。

所轄官庁は総務省消防庁で、役所仕事の常として『前例主義や経験則の措定内対応』に留まり、想定外の予測・予防・減災の検討や防止措置対応の動きが分かり難く、何もしない内に次の大災害を迎えることになりかねません。 
 私達一般市民の素朴な不安や疑問が一番確実で的を得た危険予知・予測です。 積極的に関係部署に働きかけることが、唯一本質的な対策を打つ契機になります。 お互いに勇気を持って関係企業、自治体、官庁、政府に働きかけていきましょう!

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