1-11. 日本よ、承認願望から脱却せよ

 「良い子になりたい承認欲求は国を亡ぼす」R7.2.9産経新聞日曜コラム

　谷口智彦 ：元内閣官房参与（安倍元首相スピーチライター）

　誰にでも好かれたい人は、自分をなくしてしまう。優柔不断になって真の友達は出来ない。国もこれと同じではないか。

　西欧帝国主義が一番幅を利かせていた時期、日本はたった一人、白人世界に参入した。髷をほどいて洋装にした。暦を変えて季節感覚まで犠牲にした。全ては「一等国」として認められんがため、近代への船出を、承認欲求に身もだえしながら始めざるを得なかった国が日本だ。
　末路は悲惨だった。大戦争に敗れ亡国の憂き目を見た。ちょうど80年前だ。　米英ほか連合国やソ連からは、永遠の敵国扱いになるわ、近隣各国には一斉に疎まれるわで、日本はまたしても、承認欲求に身を焦がして戦後を始める。
　染みついた性癖の粘着力は強く、終始頭をもたげては己を見失わせる。
　なぜ夫婦別姓を法律にしたいのか？「父」や「母」の文言が法律から消え、有名テレビ番組「おかあさんといっしょ」も、「親Aと一緒」になりかねないというのに、なぜ同性婚合法化を進めたいのか？
（イスラム圏なんかは無視して）先進国がこうだから日本もと、そんな理屈だ。よい子になりたい欲求が政治家を、特に弱い政権をあらぬ方向に走らせる。
　そこからはすぐだ。「世襲の皇室は前近代の遺物、男系一統はもっとそうだ」と誰かが言い出すのは。数知れない先人たちが悠久の時を超えて務め、なんとかかんとか保ってきた国の形が、この分ではあれよあれよという間に代わりかねない。

　「世界中で日本にしかないのが何が悪い、てやんでえ悪いもんか、いっそ人類史の遺産だ」と涼しい顔で口笛の一つでも吹けるようでなくてどうする。

　対外関係でも同じだ。いい人と思われたがる外交をしていると、いつか相手に裏切られてほぞを噛む。
　インドネシアを見ると良い。日本は敗戦後同国の独立戦争に日本軍が2,000人も残って支援し、戦後は最も手厚い保護を同国に与えた。お陰で彼の地の大衆は総じて親日的だけど、それが日本の国益に転換できたか？　高速鉄道＝何世代にも及ぶ重要インフラの建設をインドネシアは中国に頼った。今度は中国を盟主とする国際枠組みBRICSに正式加盟だ。東京は仁義を切ってもらえたのか？

　中でも中国によく思われたがる日本各界を覆う根深い性癖は、国を過つ重大疾患と呼ぶべきだ。対中関係に安定を求めるのは良い。しかしそれには、侮られない力と胆力が要る。相手は一にも二にも力を、力だけを信奉する国ではないか。

　誰かからお褒めを貰いたがる態度が、そもそもおかしい。己をおとしめてかかる生き方だからだ。

過剰な承認欲求は、人も国も過つ。誰かの目を意識して生きるのは、もうたいがいにすべき時だ。