私の母校は成績重視の高校で、印象に残る事が少ない3年間でした。
しかし体育の綾部先生はスポーツへの熱意が凄く、またクラス全員がスポーツ音痴に近いガリ勉タイプでしたので、スポーツ苦手の私でも、少し努力すれば面白さを満喫出来ました。
1. ラグビー・・よく県大会に出場していた俊足の河野義和君にボールが渡ると独走になるので、私はその前にタックルする役割に徹し、鈍足の私でも『確かに男らしいスポーツだ!』と実感しながら夢中になりました。
2. 剣 道・・私が大好きなTVドラマ 「半沢直樹」 は甲斐総治郎君とダブります。 甲斐君は剣道盛んな高千穂出身、中学時代に有段者で、初めて防着をつける私達は赤子のようなものでした。 しかし綾部先生の
『授業の最後にクラス全員の勝ち抜き戦をやる』 の宣言に、『よし、甲斐君に勝ってクラスの剣道トップに立つぞ!』
と、負けず嫌いの私は燃えました。
それから下宿に帰ってから1~2時間、綾部先生から指導を受けた素振り、足さばきの練習を繰り返し『これなら竹刀のスピードは甲斐君にも負けない』というところまで来ました。しかし目標は有段者の甲斐君に勝つことです。基本の練習だけではとても勝てません。
『なにか得意技=秘剣が必要だ・・』
と考え付いたのが、佐々木小次郎の 『燕返し』です。甲斐君の鋭い第一撃を強く払いのけ、その反動で鋭く 横面か小手 をとる・・これを何回も練習しました。そして実際に試してみたいのですが、残念ながらイワツバメがいません。しかし格好の練習相手を見つけました。夕方に下宿前を何十匹ものコウモリが飛び交うのです。コウモリは自前のレーダーを持っており、障害物があってもひらりとかわして身の安全を確保します。『よし、あれを切り落とせば秘剣完成だ。名付けてコウモリ返しだ!』。そして精神を統一して正面に飛んでくるコウモリに切りつけました。
コウモリが当然のようにヒラリとかわし、横をすり抜けるのを 『小手!』 と払うとバサリと手ごたえがありました。左足元を見ると翼を折られたコウモリがモソモソとうごめいています。
『できた!』 満足感から覚めると、コウモリの祟りはないか心配になり、そっと傷ついたコウモリを森に逃がしました。(コウモリ仲間に助けてもらえよ・・と念じながら)
そして待ちわびた剣道最終日、名簿順の勝ち抜き戦が始まりました。
安藤英人君、五十嵐君、石崎君、稲井君、岩切君・・と順調に退け勝進みました。5人とも密かに研鑽を積んだ私の相手ではなく『あと4人で甲斐君だ・・』と思っていたところに、思わぬ落とし穴がありました。それは浦元君(現同窓会会長のお兄さん)です。真面目でおとなしい中高一貫組の中では規格外の西都の野生児です。『構えて、始め!』
の声がかかると、構えも何もあったものではありません。へっぴり腰で『ワー、ワー!』と大声でわめきながら、そこら中を動き回り、まるでガキ大将のチャンバラです。『これは剣道じゃない、どうするか・・』と思っているところに、無茶苦茶振り回していた彼の竹刀が腕に当たりました。
『小手、一本!』綾部先生の無慈悲な声が響きました。
『えー、それはないよ!』・・しかし体育の武道体験授業で判定は覆りませんでした。そのあと甲斐君が勝ち進んでいきましたが、私は放心状態で興味を失っていました。
『敵わないまでも、甲斐君にコウモリ返しを使ってみたかった』いまでもそう残念に思っています。
(エピローグ)
〇甲斐君:旧国鉄民営化に尽力、JR九州専務、九鉄工業社長・会長歴任
〇浦元君:国際的活躍、ユニセフ、ILOアジア局長、上智大特任教授
0 件のコメント:
コメントを投稿