2024年11月6日水曜日

1-11. 古事記物語2「天照大神誕生」

 イザナギ神は「どうして私は、あんな死人の住む、醜い、きたならしい国へ、わざわざ出かけていったのだろう? そんな良くないことをしたので、体がすっかり穢れてしまった。よく水で洗って清めよう」と考えました。

そこで日向の橘小戸の阿波岐原に出かけていきました。そこは海へ流れ込む河の入り口にあり、橘の葉が青々と茂り、朝日がキラキラと差し込む景色のいいところです。そこで着ているものをぬいで、みそぎという儀式を行いました。



まず手にした杖を捨て、帯を解き、腰の裳を脱ぎ、その下にはいていた袴を脱ぎ、冠も取りました。そして両手につけていた玉の腕輪も外して裸になりました。こうしたものを順々に脱ぎ捨てていく間に、からだにつけていたものから12人の神が生まれました。

そして裸のまま、朝日のさしている河の流れに目をやって、

「上の瀬は流れが速い。下の瀬は流れがゆるやかだ。」と言って、真ん中の瀬のあたりに行き、冷たい水の中にくぐって、からだに水を注いで洗い清めました。この時、からだについていた穢れが落ちて、4人の神が生まれました。さらに、水の底や、途中や、表面に出て体をそそいだ時に、6人の神が生まれました。

その次に左の目を洗うと、太陽のように美しい女神「天照大神」が生まれました。それから右の目を洗うと「月読の命」が、その次に鼻を洗うと「須佐之男命」が生まれました。



この三人のこどもたちを見て、イザナギ神は喜んで、こう叫びました。

「わたしはこれまでに沢山の子供を生んだが、一番おしまいに、世にも尊い三人の子どもたちをももうけたことは、本当にうれしいことだ!」



そこで、玉という玉がお互いにふれあって、きれいな音を響かせている首飾りを外して天照大神に渡し「おまえは私の代わりに、高天原を治めよ」と命じました。

月読の命には「おまえは夜の国を治めよ」と命じました。

須佐之男命には「おまえは海の上を治めよ」と命じました。



こうして昼の国と、夜の国と、海とが、三人の子どもたちの手に委ねられ、夫々の国を治めることになりましたが、一番下の須佐之男命だけは、言いつけを守りませんでした。海の上を治めるように言われたのに仕事を始めず、朝から晩まで泣きわめいています。

時がたって、もうすっかり大人になって顎の下のひげが胸まで垂れ下がってきても、地団駄踏んで泣きわめいていました。その鳴き声の激しい事と言ったらまるで暴風雨のようで、青々と草木の茂った山が、鳴き声で枯れ木の山となり、波の騒ぐ海や河が、水の一滴まで乾いてしまうほどの勢いでした。国を治める人がこんな有様ですから、悪い神々が隅々から騒ぎ出し、五月の蠅がブンブンいって沸き立ったような大騒ぎになりました。



イザナギ神は、この様子をみて心配になり「どうして国を治めず泣いてばかりいるのか」と尋ねられると、須佐之男命は「私は亡き母のすむ根の堅州国に参りたいのです。だから泣いているのです」と答えられました。須佐之男命はイザナミ神を母と思っていたようです。それを聴いたイザナギ神はたいそう怒って、「それならばお前はこの国に住んではいけない」と追い払いました。

追放された須佐之男命はその後どうなってしまうのでしょう。ここからは天照大神と須佐之男命を中心とする新しい物語が展開します。



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