2024年10月5日土曜日

3. 出光佐三氏に学ぼう!

  2012年夏に発刊された 『海賊と呼ばれた男(出光佐三)』 が、今なお沢山の読者を獲得し、若者から 『こういう経営者のいる会社で働きたい』 と人気が続いています。
その一方で、2015年の東芝の粉飾決算~東芝解体、三井不動産・旭化成建材のマンション杭施工不良、2017年神戸製鋼・東レのデータ改竄、日産の無資格検査員問題、更には新幹線の台車亀裂放置走行・制作時の底板肉厚不足等々、目を覆いたくなる低次元の不祥事件が続いています。 『安全・安心・高品質の日本は、どこに行ってしまったのか? これからの日本は大丈夫か?』 と、全国民が日本の現状に危機感を感じています。 

  2014年8月、32年間も虚偽の慰安婦報道を続けてきた朝日新聞が誤報であったことを認めました。 しかし『朝日新聞の長期間の誤報道で、日本国や国民の国際的名誉を著しく損なわれた』事には一片の謝罪もなく、ついにサンフランシスコに慰安婦像が建立される等、世界中にその悪影響が拡散しています。 加えて昨年の森友・加計学園の根拠・証拠のない安倍批判報道等・・・ 良識・良心不在の報道としか言えません。 朝日新聞社は名門大学卒のインテリ社員が多く目的のためには嘘の情報でも構わない。』という現実無視の犯罪的報道体質がはびこっています。(参照:『徹底検証=森友・加計事件』(小川栄太郎)、『逆説の日本史』(井沢元彦 これは朝日新聞社が非難する戦前の軍部粉飾報道や、中国・北朝鮮・韓国の反日思想誘導と全く同じです

 こういった非常識で醜い諸企業の姿が常態化している事が、『"海賊と呼ばれた男” のような会社で働きたい』 という若者の声の背景にあると思います。  こういう純粋で瑞々しい若者に応えるべく、私達は勇気を持って、しっかりと襟を正すべきだと思います。
ところで、かの出光佐三氏は、会社の存在意義、採用・若手育成を、どう考え対処されたでしょうか? 戦後の大変な苦境を乗切った後、1957年(S32)に 初めて徳山製油所を建設し、その運転技術者として、都会の裕福に育ったオボッチャンではなく地方の工業高校卒、また貧しくて進学できない優秀な中学卒を大量に採用し、『出光学校』 で2年間高等教育を与え、希望者には定時制高校に通わせました その後、1963年千葉、1970年兵庫、1973年北海道、1975年愛知と矢継ぎ早に新製油所を建設しましたが、この中卒・工高卒者が中心となって建設し、運転を立ち上げました。
また1966年、当時世界一のマンモスタンカー出光丸(21万t 竣工披露では、これからの日本を背負う若い人達に世界最高のものを見せてやりたい!』 と、全国津々浦々から一万五千名もの中学生を招待し見学させました。
『僕の事業目的は、社員が真に働く姿を社会に示し、人々から尊重される人間を作る事だ。 石油業はその手段に過ぎない。』 
『卒業証書を捨てよ。新人に大事なのは仕事の基本をしっかり学ぶ事であり学歴は関係ない。 だから僕は丁稚奉公からスタートしたんだ。』   (出光佐三氏)
しかしいまの世の中はコスト・人件費削減最優先で、派遣や中途採用多用で新規採用を極力抑え、即戦力・早期育成の掛声のもと若手社員を追い立てています。 また全国3千人しかいない高専卒の就職希望者なら誰でも良いと、仕事内容と全く無関係の建築・土木・都市工学等までプラント運転員として採用し、高専卒割合を80%以上としている企業があります。 その裏返しとして優秀で志が高く人物的には魅力的な学生が多い全国13万人(高専卒の40倍以上) の工高卒は採用を避けています。  こういう企業姿勢で、工業高校によっては学科閉鎖や他校との合併に追い込まれ、深刻な 『日本の ものづくり衰退、震災復興・東京オリンピック需要の中での土建業種後継者不足』 に拍車をかけています。 従って近視眼的な学歴偏重企業は社会的責任を果たしているとは言えません。
恐ろしいのは、短期的には頭数を揃え辻褄を合わせても、志の低いやる気のない新人を大量採用して中々期待する戦力に成長せず、技術レベルやモチベーション維持が困難となり、 『S40年代後半の技術力不足による石油コンビナート大火災事故多発のような危機的状況』 に陥る事が懸念される事です。 さらには 『他社の高専卒同期は課長・係長になったのに一生交替勤務か・・・』 と悩む中堅社員が増え、モチベーション低下で企業風土が一変し、やがて企業存続が難しくなる事態になることが予想されます。

『鶏口となるも牛後となるなかれ』 という格言があります。 『牛後ばかりを採用し、牛後の職場にしていないか?』 という厳しい自省と視点が人事部門には不可欠です。 
 
石油・化学・電力・鉄鋼・ガス等の製造基幹産業では、交替勤務業務は全て工業高校卒です。これは学歴偏重からではなく複雑・高度化されたプラントを安全に運転し、想定外の非定常操作を含めたあらゆる状態への対応が出来る一人前の運転員育成には、ベテランの指導を受けながら最低10~20年間の習熟訓練・育成期間が不可欠 だからです。 かって高度成長期に初歩的ミスによる大火災・爆発事故が頻発したのは、この育成期間が不足し未熟な若い運転員が大半だったからであり、習熟とともに重大事故は減少しました。 こういう歴史から、交替勤務業務は、製造業に不可欠の基幹業務であり、約40年間を交替勤務に従事する事に使命感と誇りを持って取組む人材が必要で、工高卒業生が最適任である。 という認識が、世の中では一般的であり、こういう社会的ニーズに基づき全国の工業高校数・学生数は決定されています。 大事なのは、こういう現場ニーズや国内教育環境を熟知した者が、企業の戦略的採用・育成・人事を担当しているかどうかです。

 バブル崩壊から約20年が経過しました。
各社とも世代交代の真最中で、高度成長期最後の戦士達が大量に退場していく中、20年前のデフレ不況の就職超氷河期に就職し頑張ってきた優秀な若者が今や各社の中心的存在となり、新たな時代が到来しました。 そこで今回は、この40歳前後の中心的社員が、20年前にどんな若者であったかを紹介したいと思います。 これから社会人となる人、入社直後の若い人は 『目指す姿』 として是非参考にしてほしいと思います。













  平成一桁後半当時、各社ともバブル狂乱で抱えた不良債権で経営危機に陥り、中でも拓銀や山一証券等の大手金融会社が相次いで倒産して、銀行の貸渋りで経済界は大混乱し、殆どの会社は新卒採用中止している状況でした。前出の出光佐三氏が生前、Speculation (投機)は絶対やるな!』 と戒め、危惧していた未曾有の経済危機が到来した訳です。

 こういう中で20年後の大量世代交代到来を見越して、この会社は毎年20~30人の高専卒採用を継続していました。 超氷河期の時代背景から、みんな各校トップクラスの優秀な新人達で、向上心も使命感も高く、短期間で一人前に成長していきました。
また職場の先輩達は育成意欲が高く、緻密な修得課題表を与えて、毎日口頭試問し実技訓練を繰返し、『星取り表 掲示板』 で修得進捗状況が職場全員にリアルタイムに一目で分かるようにし、 また上司・先輩は多忙な業務の合間にも修得課題レポートを確認し、コメントを記入して、木目細かくフォロー・激励していました。
   ある程度の実力が身に付くと、『この操作を一人でやってこい!』 と、重要な操作を次々と任せ自信をつけさせました。 しかし指示後 『手順通り正しい操作を間違えないでやっているか?』 と、ハラハラしながら物陰から見守っていました。 若手もまた、その先輩達の思いをヒシヒシと感じ頑張りました。 先輩達は仕事以外でも独身寮に頻繁に顔を出し、町に繰り出して痛飲したり、町内の草刈や祭りに参加したりと、公私にわたって面倒を見ました。

こういう指導をされた若手は、当然ながら成長著しく、画期的な創意工夫・改善を行い、当時取組んでいたTPM活動で、日本プラントメンテナンス協会上席コンサルタントの大島名誉教授(東工大)や佐山名誉教授(岡山大)の前でも堂々と改善事例を発表し、先生方から 『入社2~3年でこんな素晴らしい仕事をしているのか?』 と絶賛されるのが常でした。


こういう優秀な若手と面倒見の良い先輩が一体化した工場に対して、前出の大島・佐山名誉教授からは 『世界一の精鋭集団だ!』 と絶賛されました。 しかし残念ながら重質油分解装置がなかった為に競争力が低く、2003年工場閉鎖となり全所員は他工場に配置転換となりました。
入社数年で愛する職場と仲間を失い、見ず知らずの人間集団の中で新しい仕事をゼロから覚える・・・想像を絶する苦労があったと思います。  それから10年、今や新たな職場で高い信頼を得、早くもリーダー格・中心的存在となって活躍しています。
 まさに 『艱難辛苦、汝を玉にす』 の言葉通りです。
先日、その一人から以下の便りがありました。

世代交代は、私の職場でも現在大きな課題となっています。
この1、2年でベテラン社員は殆どいなくなります。
60歳代勤務延長組やキャリア採用組に頼らざるを得ない状況で若手育成に苦労しています。 最近の若者は、育ってきた環境や価値観の違いが大きく、思うように成長していないのが実態ではないかと思います。』 

 の危惧は、今私が大学で感じている 『向上心・覇気のない若者』 と一致します。
いま職場の中核で信頼厚い平成一桁入社 中堅社員の若い頃と、今の若者と何が違うのか?  最大の違いは 『ハングリー精神』 です。 そして 『少数化で多忙すぎる先輩は自分の事で精一杯で、若手を育成指導する余裕もマインドも薄くなってきている』 という現実です。

平成一桁世代は一流大学を出ても就職できない超氷河期の真只中だったので、文武両道に優れたトップクラスの高専卒が全国区で採用でき、その後輩も 『あの先輩が選んだ会社なら間違いない』 、『早く世の中に役立つ人間になりたい!』 と目的意識、使命感がしっかりした優秀な若者が入社してきました。
 20年続いたと言われるデフレ不況の中で高専の学生意識は変化しました。全国約1万人の向学心の高い学生の約70%が国立大学進学(大学3年編入)するようになり、就職組は30%(1学年3千人)程度となりました。  その中には経済的理由で進学できなかった優秀な学生もいますが、勉学意欲が低く自由気儘な5年間を送った学生も少なくありません。 もしこういう学生が大量入社すると育成に大変な苦労をすることでしょうし、将来の経営を危うくする事が危惧されます。

今の若者は家庭でも学校でも過保護に育てられて、変化やプレッシャーに弱く、自立心も向上心も進取の気風も低い傾向があると言われます。 携帯・スマホ・ゲームの刹那的な楽しみに熱中して、人生の目的意識を持たず、他者との交流、コミュニケーションが苦手で、自分の狭い世界に閉じこもり満足する傾向が強くなっています。
こういう若者に接する先輩が 『早期育成』 の掛声だけで知識やスキルを詰込もうとしたり意識改革しようとしても、『馬耳東風、暖簾に腕押し、豆腐に鎹・・・』 。 大学でも同じで、90分1コマのキャリア教育では如何ともしがたく途方に暮れる日々です。 恐らく前出の40歳中堅社員も同じ思いで若手育成に悩んでいるのだと思います。
これは根本的には、小学・中学時代の家庭教育や学校教育で、人生目的・目標意識を育む徳育が等閑にされ、根本的に不足している事に起因していると思います。 本当はそこからやり直さないと解決できない大きな問題です。 

しかし、だからと言って目の前の若者の問題を放置するわけにもいきません。 
 大事なのは『君はこれから10年後、20年後どうなっていたいのか? 会社40年間・人生80年間で何を目的として、何を目標に、どう生きていくのだ?』 と、常に問いかけて夫々の人生のビジョンを考えさせ、目的・目標を持たせる事が一番大事な事ではないでしょうか? 賽の河原の石積みのような作業ですが、『何時かは、その大事さに気付くだろう』 と信じながら、今日も学生に自分の将来ビジョンの大事さを問いかけています。
 これは、かの学歴偏重企業の若手社員にも同じです。 その会社の採用・育成方針は根本的に間違っていますが、入社させたからには社員は大事な家族です。 崇高な理念に向かって徹底的に愛情鍛錬し、また若手社員自身が、入社したからには、自分自身の輝かしい将来ビジョンを描き、その実現に向けて地道に努力していくのみ!』 と開き直り、突き進むしかありません。 まさに出光佐三氏が愛した仙厓和尚の禅画 『布袋図』 の教えの通りです。
  ”目先の指だけを見るな。 指さす先にある月(目指す姿)を見よ!” 



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