2024年10月5日土曜日

3. 心の交流が最も重要(橋本さん)

 尊敬する橋本さんは、『一生感動、溌溂人生の達人』 です。
 昭和17年に宮崎県北諸県郡高崎町(当時)に生まれ、高崎中学と泉が丘高校では同級生の南園さん(元日東紡績社長、会長)と共にダントツの秀才。横浜国大の空手部創設者。卒業後は安田信託銀行入社、ロンドン勤務などを経て人事部次長、本社部長、横浜支店長など重責を歴任、退職された後も多方面で活躍され、現在関東地区の宮崎県人会副会長(都城会会長)として長く県人親睦に尽力されてきたリーダーです。
 また若い頃から文学青年で、随筆・小説・論文・俳句・川柳etc. と、幅広い文筆活動もされています。今回は橋本さんの作品の中から、私達に『明るく、力強く、思いやり深く生きよう!』 と力を与えてくれる、川柳と若き頃のエッセイを紹介します。 

1.ウイットに富んだ名川柳
退職後、ご自身の趣味の俳句では何回も芭蕉賞を受賞されています。また川柳が秀逸です。今回はその橋本さん傑作川柳から私の好きな数作品を紹介します。「我が家と一緒だ!」と思わずニンマリです。

可愛い孫をテーマに
 ・なまはげは どんなハゲかと 孫がきく
 ・節分を セップンと読む孫娘
 ・孫が言う 「かしこ」さんから ハガキきた
 ・孫来ると バアバ優しく 変身す
   ・世辞言わぬ 孫に真実教えられ
 ・内情を リアルに暴露 おままごと
 ・スマホ持ち 親も駆け出す 徒競走
➁退職後逆転した妻との力関係
 ・アナタッと 呼ばれた時は 身構える
 ・助手席のカカナビ いつも命令す
 ・傍目には 夫婦円満 俺が耐え
  (妻返句)耐えてきた そういうあなたに
        耐えてきた
 ・天高く 馬より先に 妻が肥え
 
・夫婦岩 大きい方が 妻のはず
 ・不用品 亭主以外は ありません
➂老いたる悲しさ
 ・立ち上がり 用を忘れて 散歩する
 ・耳遠く 小便近く 口達者
 ・マドンナの しわを見つめる クラス会
 ・美人の湯 個人差ありと 書くべきよ
 ・髪の毛の 量で決めてよ 理髪代
 ・花よりも 酒を供えよ 俺の墓
④俳句入賞作(橋本世紀男さん句集「四季彩」2024年2月11日発刊より) 
 ・路地裏に 光集める 黄水仙
 ・駅ごとに 河津桜の 迎えあり
 ・病む人に 頼まれ求む さくら餅
 ・蛍舞う 恋の音符を 紡ぎつつ

2.著書 『21世紀の出立』(近代文芸社1997年)より
 橋本さんの退職を記念して「社内報投稿などの随筆等を纏めて本にして欲しい」と会社から要請され、1997年21世紀への出立』は出版されました。
高校時代から、若手銀行マン時代、中堅・重役へ・・と、橋本さんの瑞々しい感性、社会への鋭く暖かい視線と、将来への警句・・出版から20年以上経過した今でも、私達に新鮮な感動を与えてくれます。その中から若い20歳代の頃の作品をご紹介します。

(1). 小さな出来事
  乗り合いバスが国鉄千葉駅前を左折した後、乗客の間からざわめきが沸き起こった。バスが駅前の停留所に泊まらず通過してしまったのである。東京方面へ通勤する乗客が多いので、この便の乗客の殆どは国鉄千葉駅前で下車する。
「どうして停車しないのか?」乗客の質問に運転手は平然として答えた。
「だって誰も停車ボタンを押さなかったじゃないか」
運転手の態度に興奮した乗客は口々に叫んだ。
「ボタンを押さなくても駅前で殆どの乗客が下りる位わかるだろ?」
「今迄の運転手さんはボタン押さなくてもちゃんと止まったぞ!」
「今日の運航は時間よりずいぶん早いじゃないか。時間待ちしなくてよいのか」
「バス会社に電話して文句いってやるからな」
私達乗客は一つ先の停留所でバスを降り、他の乗客と共にぶつぶつと不満を述べながら国鉄千葉駅まで引き返した。その朝、私は色々なことを考えさせられた。
「次は国鉄千葉駅前です。お降りの方はボタンを押してお知らせ下さい」という社内放送があったのだから、理屈の上では運転手には何ら落ち度はない。ボタンを押さなかった乗客が悪かったといえよう。しかし、今まではボタンで合図しなくてもちゃんと止まっていた・・そこになんとなく割り切れないものを感じ、乗客は不愉快になったのである。
ともあれ、このちょっとしたハプニングにより、運転手を含めて大勢の人間が早朝から不愉快になったのは間違いない。翌朝から、私は必ずボタンを押すことにしている。

(2). もうひとつの出来事
 私の大学生時代の出来事である。
 某大国が核実験をして2,3日後の夕方のことである。午後になり思いがけなく雨が降り出したために、傘の用意のない人が多かった。私はすぐ前を歩いている男子高校生に、「一緒にどうぞ」と傘を勧めた。
 無言でいるのも気まずいので、歩きながら私は高校生に話しかけた。
「先日の核実験で、今日の雨にはきっと放射能が含まれている筈だね。」
「・・・・・・・・・」
「核実験は是非ともやめて欲しいね」
「・・・・・・・・・」
 私が何を語りかけても、彼は全然返事をしないのである。私は何か彼の気に障るようなことを言ったのだろうか。私は妙に落ち着かない気持ちになると同時に、無作法な高校生に対して無性に腹が立ってきた。私よりは背の高い彼の為に、自分一人の時よりは高めに傘を持ちあげている私の右手が、急にだるくなってくるのを覚えた。 私は腹立たしい気分になり口をつぐんだ。
 しばらく歩いて四つ角に来た時、その高校生が突然、
「アワワワワ」と、奇妙な声をあげて走り去っていった。私は一瞬びっくりしたが、少し経ってから、彼が言葉が不自由だったことに気づいた。
 自分の家の近くにきて、言葉の不自由な彼が必死の想いで私にお礼の言葉を述べたのである。・・言葉にならないお礼の言葉を! 私の語り掛けにずっと黙っていなければならなかった彼は、どんなにつらかっただろう。彼にとっては、いっそ雨に打たれて一人で歩いていた方がよっぽど楽だったことだろう。
「アワワワワ」という奇声は、なんという素晴らしいコミュニケーションであったことか。この短い言葉によって、私は彼に詫びたい気持ちでいっぱいになったのである。
 あの高校生は、社会人になって今どうしているだろうか。言葉にならないお礼の言葉を、勇気を出して大声で言ってくれた彼のことだから、きっと人生の苦難にも真正面からぶつかって頑張っているに違いない。

 二つの小さな出来事・・・バスの運転手と言葉の不自由な高校生は、コミュニケーションには何が最も重要であるかを私に教えてくれた。
 人と人との触れあいに最も重要なのは『心』であることを・・

(3). 教育について
 最近、心のいびつな人間が増えている。学校の成績の優秀な人間に、心のゆがんだ人が多くみられる傾向があるのは困ったことである。心の欠陥については、体の欠陥とは違って、本人には中々気づかないから、事は厄介である。
 いまや教育について真剣に考えるべき時期に来ている。我が国の高度成長は、美しい自然や人間精神の荒廃という、余りに大きな犠牲の上に支えられてきたのではないだろうか。断片的な知識を数多く暗記して、ペーパーテストで優秀な成績を上げえたとしても、心のかけている人間が一体何の役に立つだろうか?個性のない、思いやりのないエリートどもが、社会の各部門でリーダーになったとしたら、世の中はますますギスギスしてきて、「砂漠のような」人間関係しか残らなくなってしまうに違いない。
・・・(中略)湯川博士は次のように語っておられる。
「各自が考えて、自分で判断する。そのうえで行動する。という能力を養成していくことが、教育の一番大切な点だと言えます。 今の学習の在り方では、自分で考える習慣はどうもつきにくい。知的には受け身の人間を作ることにもなる。それでは、人のすることに右へ倣えしてやらせることになる。これはやはりなおさねばならない。」

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